平和っていいよね

知世ちゃんと二人、もう二度と後戻りできない旅に出た。
新居は神田。風呂なしアパートの二階。近隣住人の声に怯えながら愛を囁きあった。

僕は得意げに下駄を鳴らしながら、赤いマフラーで知世ちゃんに引かれて銭湯につ

いた。
入り口で硬く握手してから僕は知世ちゃんと隔離された味気ない時間を過ごした。

熱かった。
悲鳴をあげそうになった。
温度計を見たら42度だった。

僕は、居残りを命じられた小学生のように、知世ちゃんを待ちつづけた。

雨が降っていた。
花柄の傘をさして君を待った。
体中すっかり冷えてしまった。

君は白い肌を上気させて出てきたね。どこまでもどこまでもどこまでも、透き通った膚と声で。お風呂のお湯について尋ねると

「え? お湯の温度が如何なさいました???」

顔を真っ赤にさせて、僕の自慢の黒い髪から白い蒸気を上げて。

「遅れて申し訳ありませんわ。髪を乾かすのに時間がかかってしまって。本当に、貴方を待たせてばかりで・・・ご、ごめんな・・・・・」

何か、あったんだね。

世知辛い世の中、君に肩身の狭い思いをさせてばかりで、いつも君のことは後回しで、プリキュアにばかり金を注ぎ込んで、デジキャラッとファンタジーを衝動買いして、ごめんなさい。いつもいつも感謝している。お詫びとお礼が言い足りないよ。ありがとう。君を好きになってよかった。僕は生まれ変わっても君を好きになるだろう。

銭湯からの帰途、二人でいつも一匹八十円の鯛焼きを分け合った。いつも。君は尻尾のほうだった